2024/01/30
図は、ある患者さんの鼻呼吸の活動と脳の各部位の活動を示したデータです。左は鼻呼吸(Nose)、右は口呼吸(Mouth)との脳の活動の違いを示しています。脳の活動は鼻呼吸と同期していますが、口呼吸では同期性がみられません。鼻呼吸は脳にリズミカルな刺激をあたえています。脳の各部位(梨状皮質PC、偏桃体AMY、海馬HIP)における活動波を青で、呼吸波を赤で示しています。 (Christina Zelano et al., Nasal Respiration Entrains Human Limbic Oscillations and Modulates Cognitive Function. Journal of Neuroscience 7 December 2016) 脳の活性に関わる鼻呼吸 頭がはっきりしない、頭がはたらかないといった症状は、脳に霧がかかったような状態でブレインフォグといわれます。脳幹から投射するセロトニン系やアドレナリン系が、十分に前頭葉を賦活してくれていないからです。 実は、鼻呼吸が重要になってきます。呼吸には左右の鼻腔から周期的に空気が流入しています。数十分から数時間の周期性がみられます。とくに睡眠時にこれがはっきりとあらわれます。この周期性に、左右の脳の活動が関連していることが明らかになりました。鼻の呼吸が脳のはたらきを左右交代で活性化させています。口呼吸は脳を刺激しません。気分が安定しない、イライラする、落ち着かないなど精神的な影響は良質な睡眠がとれていないことに起因している可能性があります。 鼻が詰まるといった訴えは、交感神経の緊張からくる鼻粘膜の充血や、アレルギーによる鼻炎もありますが、鼻のサイクリックな周期性はこれらはと違います。どちらかの鼻腔で匂いが通りにくいといった感じでみることができます。 匂いは脳を直接刺激します。大脳辺縁系と視床下部それに脳幹の大脳賦活系を刺激するのです。匂いが情緒的な気分を醸し出し、昔の記憶と結びつく理由がここにあるのです。 鼻呼吸は匂いを運び、視床下部を刺激しホルモンの分泌にも関わっています。 臨床的に重要なのは、副腎皮質刺激ホルモンとの関連になるでしょう。副腎皮質は朝の目覚めとともにコルチゾールを分泌が高まり、身体の活動エネルギーを高めてゆきます。コルチゾールが十分に分泌されていないと交感神経の活動が高まらず、身体はだるさで重く感じられます。なかなか朝起きられず、ようやく午後になってから動き出せるようになります。そうしますと、就寝する時間が遅くなり、朝も起きられないということから、きちんとした一日の生活ができなくなることになります。 鼻呼吸を整える技術が身体呼吸療法にあります。 頭蓋骨は驚くほど精密に組み合わさり、内側からの圧力の変動により微妙に動いています。身体呼吸療法では、頭蓋の内圧変動を利用して鼻呼吸の偏りを調整し、脳のなかの水の流動性を促すことができます。施術を受けられた方々がみなさん、良く眠られるようになったと話してくれることから確信しています。
眠れない方のために
睡眠中に脳の中の水(間質液)が老廃物を洗い流す 脳の中のグリア細胞の1つアストロサイトが動脈から水チャンネル(アクアポリン)を通じて、水分を脳の実質に輸送を担っています。動脈周囲の液を脳の実質内に水分を拡散させ、さらに脳の実質内から静脈周囲溝へと移行させます。脳の間質液はリンパになって流れ出て、脳内の老廃物を排出しています。この流れは睡眠中に生じる深い呼吸運動によって促進されていることが明らかにされました。(Sience Vol366-6465 Nov.2019)
2022/03/28
第一部 脳の理解を深める 1 Ⅰ章 ニューロンとグリア細胞2 シナプス:ニューロンの繋ぎ目3 シナプスにおける伝達過程の概要3 グリア細胞3 トライパータイトシナプス(tripartite synapse):アストロサイトの役割4 脳間質液の流動5 アストロサイトの情報伝達:カルシウム ウェーブ7 アストロサイトの収縮運動8 Ⅱ章 脳の役割と構造、その起源から10...